月夜見

   “秋の気配も御存知ないか”

      *TVスペシャル、グランド・ジパング ルフィ親分シリーズより

 

今年もやっぱり酷暑だった夏が、だが、
急にその暑さが収束した感がある東方では、
朝晩なぞ
うっかり夏のままの格好でいると
足や腹を冷やして風邪を拾いかねぬほどの涼しさで。
まだまだ蝉の声も聞かるるが、その一方で、
草の陰からは幼いながら秋虫の奏でもかすかに届きで。
やあ秋めいて来たねぇなんてのが、
この頃のご挨拶の第一声になりつつあるほど。

 「夏がどんだけ暑かったかってことだろな。」
 「今年は特にやられた感が強かったしなぁ。」

そこから、去年は上方や大坂といった西方の土地が
随分な暑さにやられた夏だったらしいのになという話になった。
夜中どころか明け方近くになっても
昼と変わらない蒸し暑いのがじっとり居残っていて、
老若男女を問わずして体を壊す人が絶えなかったって話だが、

 「今年はむしろこっちの方が暑かったねぇって、
  担ぎの薬売りのおじさんが言ってたぞ。」

町なかの通りを毎日、
薬ダンスを天秤棒で担いで売り歩く人とはまた別口の薬売り。
地元でしか取れない薬草を使った 特別な丸薬や散薬、
遠い遠いよその土地まで
てくてくと歩いて半年がかりで売り歩く 担ぎの薬売りのおじさんからは
薬効の説明のほかに、通って来た他所の土地の話も聞けるそうで。
療養所のお医者せんせえとして頑張っておいでのチョッパーが、
お昼ご飯を食べに来た“かざぐるま”にて、
顔なじみを前にそんなおじさんから聞いた話を教えてくれており。

 「西では暑さもないでなかったが、
  それ以上に尋常ではない雨が多かったらしくてサ。
  川があふれたり山裾で土砂崩れがあったりで、
  そりゃあもう大変だったそうだぞ?」

困ってる人も多かろうなぁと思うのか、
つぶらな瞳をくしゃりとたわめ、
眉を下げつつ 切ないお声での憤慨ぶりを示すのへ、

 「ほらほら、
  気持ちは分かるけどご飯どきくらいは落ち着いて。」

何しろ遠い遠い土地の話。
それをもたらしたおじさんの、旅慣れた足でも数日かかってしまったほど
それは遠い空の下のことだけに、
どんなに歯痒くとも飛んではゆけぬ。
それが口惜しいと歯咬みするトナカイせんせえに、
ナミが“どうどう”と宥めるような声をかけ、

 「そうだぞ?
  気を揉んで揉んでその挙句に引っ繰り返っていては、
  それこそ情けない話なんじゃねぇのか?」

 「う…。」

そういうのを断じるのが専門のお医者でもあるチョッパー、
板前さんの言いようがようよう判ればこそ、
仰有る通りでございますと、黙るほかはなかったり。
窘めてくれた格好のサンジが
“ほいよ”運んで来たほかほかの玉子どんぶりへ
やっと木匙を降ろした小さな医師殿のお隣りでは、

 「だよなぁ。
  こっちはこっちで元気元気な毎日を過ごして、
  手が空いてるのを手伝いにやるとか、
  頑張ってたくさん作れた着物や何や、
  よければどうぞって送るとか、
  そういう方向で体動かすのが、
  結句、一番の助けンなるのかもなぁ。」

食後のお茶をすすりつつ、いかにもな言いようをしたのが

 「…おいおい、親分。どうしたよ、一体。」
 「やめてよ、天変地異とか呼ぶのだけは。」

サンジからの案じはともかく、
胸元へ抱えたお盆の陰からナミが怖々と言い出すに至り、

 「お前ら、随分と失敬だぞ、それ

何種の何食目なんだかという定食のお盆を前にしていた麦ワラの親分が、
目尻の傷痕さえ幼さを拭う効果は発揮出来ないままな その童顔を
一応は憤慨してだろう、ぷんぷくぷうと膨らませていたりして。

 「一応はっての何だ、一応はってのは

あ、すまんすまん。(苦笑)
場外へまで怒って見せた親分さんもまた、
直接の上司のそのまた上、与力の旦那がたから、
西方の災難の話は聞かぬではないそうで、

 「藩主のコブラ様が早速にも人手をたんと送ったそうで、
  あと、ウソップがいろいろと発明してたのも、
  モノになりそなのを大急ぎで山ほど作り足してんだと。」

 「モノになりそなの?」

言っちゃあ悪いが、
やや乱暴な捕り物グッズが大半ではなかったかと顔を見合わせた一同へ、

 「継ぎ目が特殊な蛇腹式ンなってて
  物を入れないうちは小さくなってる、
  すこぶる丈夫な折り畳み式のツヅラとか、
  ノリを作ってて失敗したずるずるべとべとが、
  実はいつまでも冷えてるのを袋に詰めた“いつまでも水枕”とか。」

 「あ、それは療養所でも助かってるぞvv」

何かな、目の細かい帆布で作った細い袋へ詰めて、
濡らしてから首へ巻くと暑さ払いになるんだと。
おお、それだと両手も空くから便利だな、と。
ナミやサンジも加わり、
やっと日の目を見たんだな、あいつのトンチンカンな発明品と、
褒めているやら やっぱり腐しているのやらな会話になりつつあって。
そんな様子を眺めつつ、

 “話の半分は坊さんから聞いたんだがな。”

夏場の昼間はあんまり姿を見なんだ虚無僧の坊様、
こないだ久々に逢ったところが、
西の名物らしい、和三盆や糖飴の干菓子とやらをもらってしまい、

 『何だこりゃ。何か上品な飴だなぁ。』
 『お、こういうのにも縁があるのか、親分。』

さては ずんと上の人からも褒められるような手柄を立てたなと、
いいように混ぜっ返されちゃったけど、

 “あれって、
  京の都や西のほうに出掛けてたってことじゃないのかな。”

そりゃあ、市井のお坊様や
あるいは祈祷師や巫女などという神職は、
管轄が“寺社奉行”扱いになるがため、
原則として街道も関所も通過が自由だと聞いてるから
どこにだって行くのは勝手というものだろうが、

 ※尊い信仰心からとか、
  徳川家もまた
  神や仏の御加護を受けているからとか諸説あったそうですが、
  幕府の権威よりも歴史もあって
  全国津々浦々に根深く波及しているような大きな組織を
  徒に刺激して
  何か起きては手に負えないと思ってのことでしょうね。

 “…水臭いよなぁ。”

そりゃあさ、お武家上がりだか下がりだか、
ちょっと変り種な坊様だってのは知ってるし、
特別なお勉めを頼まれてもいるのも知ってるけどさと、
半分くらいはまだ勘違いしたままの見識のままに、
全部全部知らないのが歯痒いと、
すべらかな頬を童子みたいに膨らませる親分であり。
このまま、見回りに出て、そのご当人と鉢合わせる半時後まで、
このもやもやに苛まれることとなる、
相変わらずの秋の初めだったそうでございます。



     〜Fine〜  14.09.10.


  *何か今日は凄い雨になったそうですね東日本。
   こっちはまだまだ夏なのか、
   昼間は30度ありますよ。
   夏にそれほど上がらなかった帳尻合わせかなぁ。(やめれ


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